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福田逸の備忘録――残日録縹渺

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2009年 05月 03日

なのでシンドローム

 新型インフルエンザに怯えながらの連休だが、海外からの帰国ラッシュが国内での感染爆発の引鉄になるのだらうか。だが、どうやら豚インフルエンザは鳥インフルエンザと違つて毒性が左程強くないやうだ。死者も世界全体でまだ千にも満たない。日本で三万人死亡したとしても、年間自殺者と同じ数だ。一千万人が死んでも、生き残つてしまふ人はまだ一億を超えてしまふのだし・・・・・・。なに、心配することはない、仮にフェーズ6のパンデミック状態になつたとしても高が知れてゐよう。鳥インフルエンザは空から攻撃してくることテポドン並みだが、渡り豚なぞ聞いた事がない。いつか豚が空を飛んで糞を落とし始めてから慌てだしても、遅すぎはしまい。

 実は今、インフルエンザよりも遥かに気にかかる徴候がある。それが、「なので」という言ひ回し。この一二ヶ月の間に蔓延し出した。最初に耳について気になりだしたのが、早くても昨年の暮までは遡らない。(テレビでは半年ほど前から流行り出してゐたらしいが。)この一月程は国内でエピデミック状態に近い。学生も同僚も家族も無意識に使ふ。メールでは特に多用される傾向があるやうだ。

 どういふ使はれ方をするかといふと、例へば―――「C学部の偏差値は年々上つてをり、この傾向は、現在の改革を進めていけば更に上昇するものと思はれ、やがてはW大やK大に並ぶこともあり得ます。なので、我々としては今後も一層のカリキュラム改革を……」、「今週は色々と忙しいので週末は自宅で雑用。なので次に会えるのは……」――といつた使はれ方である。

 たちの悪いことに、これ、必ずしも誤用とは言へない。単なる言葉の省略に過ぎない。「さういふ事情ですから」「以上のような状況ですので」「といふわけなので」「従って」等を、ちよつと楽して三文字、三音ですましちやはうといふわけだ。メールからインフルエンザ・ウィルスの如く広がつた可能性もある。より短く簡潔にといふ意識が働いたのか。それが会話でも、「以上の通り説明したやうな事情ですから」などと大仰にやるよりは、楽だしィ、親しみも出るじゃん、会議だつて和むかも、なんていふ無意識の省エネ根性が働いて、盛んに使はれるやうになつたのだらう。

 だが、言葉はかうして、徐々に気付かぬうちに粗雑なものにされてしまふのだ。一年前には誰も口にしなかつた言ひ回し、テレビに出るしか脳のないバカどものいい加減な「シャベリ」に始まつて、あつといふ間に、茶の間を会議室を席巻し社会に蔓延する。かうして日本語は表現力を弱め失ひ、貧弱な言語へと堕していく。文学もいづれは消滅する。

 なので、私はかかる粗雑にして不快なる言ひ回しは金輪際使はないことにしてゐる。ア、しまつた、使つてしまつた。なので、この文章はブログに掲載するのは止めるべきかとも思ふ、が、やはり、一時の流行語には歯止めを掛け、偉さうに、日本語の堕落には警鐘を鳴らしておきたい。流行語と言ふよりは新しい語感の誕生だとのたまふ輩も出てきかねない、だとすればなほさら、このふやけた言ひ回しの抹殺扼殺根絶を提唱したい。従つて、意を決してここに掲載する

by dokudankoji | 2009-05-03 13:37 | 言葉、言葉、言葉、


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