2008年 12月 02日

内閣支持率

 舞台の仕事をして、いつも感ずることだが、一つの舞台の稽古をして本番を済ませると季節が一つ先へ進んでゐる。秋を満喫しつつの稽古に入り、本番が終つてみると冬が近づいてゐる。その間、新聞にも眼を通しインターネットで日々のニュースを追ひはするものの、頭は、例へば今回ならチェーホフ一色である。
 
 麻生首相の失言や漢字の誤読も田母神論文問題も、頭の片隅をかすめて通り過ぎて行く。医者に関する麻生首相の発言は、私としては首相の言はんとしたことは理解できる気がするが、その表現は余りにも雑駁であり、医師会が文句を付けるのもよく分る。

 「未曾有」や「措置」の読み間違ひについては、一国の宰相として恥かしくないのか、いや、国民として自国の宰相がこれではお恥かしい、呆れかへる他はないとだけ言つておく。ただし、では「未曾有」をまともに読める日本人、その意味を把握している日本人、今までにこの言葉を使つた事のある日本人がどれ程ゐるのか、それも気にかかる。

 で、本題に入る。今日の朝刊(産経・朝日)に麻生内閣支持率の急落が報じられてゐるが、その原因がこれらの失言問題なのか、誤読問題なのか、あるいは定額給付金や金融危機への対応への不安にあるのか、どうにも判然としない。これら諸々が総体として支持率を押し下げたことはありうる。

 だが私は、むしろ田母神論文に原因があるのではないかといふ気がしてならない。安倍や麻生に対する支持には、一時的に無党派層にシフトした元来自民支持の保守層がかなりゐるはずで、その人々は田母神氏の意見には恐らく大筋賛成であつたはずだ。当然、麻生首相が「村山談話」から距離を置いて、田母神氏を守る事を期待したはずだ。

 ところが事は全く逆の方向へと動いた。自衛隊の最高責任者の立場にある首相が、自衛隊員の「監督、教育のあり方について再発防止、再教育」を参院外交防衛委員会(十一月十三日)で言明し、防衛相も追随する形で自衛官の発言活動はおろか思想統制にまで及びかねない発言をしてゐる。(秋葉原の事件ではあるまいし、「再発防止」はないだらうが)

 この事が保守層の麻生内閣への失望を呼び起こして、支持率急落に結びついたのではないかといふ気がする。なんだ、麻生も村山談話に縛られてゐるのか、といふ思ひが麻生への期待を急速にしぼませたのではないか。あの、なんだか乱暴な口を利くけど威勢のよさ、明るさは悪くないな、と感じてゐた人々の期待をしぼませたのではないか。これでは、加藤紘一や古賀誠と同じではないかといふ思ひが保守層に広がつた事は否めまい。

 以上、簡単に朝刊を見ての雑感を手短に書き付けておく。

 蛇足ながら、田母神氏、空幕長ともあらう者が、懸賞論文に応募するなど、恥かしくないのだらうか。東大や京大の学長が懸賞論文に応募するのと大差ないと言つたら喩へが悪いだらうか。あるいはかう言つた方がよいのか――さうする以外に彼には自分の意見を表明する場所が無かつたのか。いはゆる、オピニオン誌は氏に原稿依頼することは思ひつかなかつたのか。だとすると、その編集者達はアンテナの張り方が足りないのではあるまいか。氏の論文に大いに賛成するだけに、発表の方法が気になつてゐる。まさか、保守系ジャーナリズムがこの種の思考に及び腰になるほど軟弱だとは思へない。やはりアンテナ不足か?
(三日午前一時過ぎに一部補足)

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 前掲記事の舞台、一応、まあまあの出来と自画自賛しておく。お出で下さつた方々がそれぞれに何かを感じて下されば、それでよしとしたい。お出でいただいた方にはお礼申し上げる。

 それにしても、チェーホフは素晴らしい。「普通」の人間、底辺に生きる人々への暖かな眼差しが私は好きだ。そして、この一年程の間、飛び飛びではあつても「白鳥の歌」を通して、人生について、生きることについて(つまり死ぬことについて)考へ続けられたのは、私にとつて無上の幸福だつた。どんな世の中であれ、どんな人生であれ、どれ程惨めな日常であれ、生きるに値するのだとチェーホフは、語り続けたに違ひない。小品とはいへ、その作品二つに一年付き合へただけでも、私の人生も生きるに値すると考へておかう。

 なお福田恆存戯曲全集は書店に並び始めたはずである。「ゲン」を担いだわけでもないが、評論集と共に、第一回配本は父の祥月命日を発売日としてゐる。劇作家としての福田恆存が、息子の私は甚だ好きなのだが、読者の皆さん、福田ファンはどう捉へるのであらうか、興味あるところではある。
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by dokudankoji | 2008-12-02 15:20 | 雑感 | Trackback | Comments(0)
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