2005年 05月 28日
私は戦後史、法律、政治、どれをとつても門外漢だが敢へて書く。 小泉首相の靖国参拝「内政干渉」発言以来、武部幹事長の発言もあつて、再びA級戦犯合祀問題が騒がしくなつてきてゐる。 朝日新聞(ばかりではないが)の報道によると、森岡正宏厚生労働政務官が26日、自民党代議士会で、「極東軍事裁判は、平和や人道に対する罪だとかを占領軍が勝手に作った一方的裁判だ。A級戦犯の遺族には年金をもらっていただいており、日本国内ではその人たち(A級戦犯)はもう罪人ではない」との考へを披瀝したとのこと、さらに、「中国に気遣いして、A級戦犯がいかにも悪い存在だという処理のされ方をしているのは残念だ。日中、日韓関係が大事というだけで、靖国神社にA級戦犯がまつられているのが悪いがごとく言う。こういう片付け方をするのは後世に禍根を残す」とも指摘したといふ(5月27日朝刊)。 朝日新聞は、さも問題発言と言ひたげである。しかし、政務官の発言は、もつともな発言、余りにもまつたうな発言に過ぎぬではないか。それどころか、既に散々「禍根を残して」来たではないか。 さらに、朝日は早速、牽制球を奥田経団連会長に投げさせてゐる。いはく、靖国神社に「A級戦犯が入っているか入っていないかということについて、改めて日本として考えなければならない」、続けて、合祀問題検討の必要ありと表明したとか。要はトヨタの車が売れればいいのだらう、さう言ひたくなる。 そもそも、東京裁判は戦勝国の見せしめ・報復裁判であつて、①事後法に基づき、②いはゆる戦犯も国内法によつて裁かれたのではなく、③裁判の受諾は刑執行の受諾に過ぎない。これらのことは今まで再三言はれてきた。 それよりもさらに重要なことは、これまた再三言はれてきたことかもしれぬが、主権回復がなつた後、昭和27年から30年の国会において、再三にわたる論議の末、国民大多数の強い後押しもあつて(署名約4000万)、生存せる「戦犯」の釈放を決議し、A級戦犯として処刑された7名も含めて全刑死者を全会一致で「公務死」と認定してゐる。 要するに、敗戦国であれ、万が一に日本国が単なる侵略的帝国主義国家であつたとしても(そんなことは絶対にありえないが)、独立回復後、我々の先達は自らの手でいはゆる「戦犯」の名誉回復を立派に挙行したのだ。ついでに言へば、A・B・C級戦犯の釈放については、サンフランシスコ講和条約(の押付け)11条に従つて、戦勝国の許可(赦免)があつた上でのことですらある。 我が国の歴史として考へようではないか。かの大戦において、我が国に何の瑕疵もないとは言はぬ。だが、極東軍事裁判を受け入れ、処理する苦難の道は遥か昔、高度経済成長の前に乗り越へてゐるのだ。刑死した軍人・政治家達は刑の執行を以つて、(もし罪ありとせば)その罪をあがなつてゐるのだ。 墓を暴くやうな、あるいは安らかに眠れる御霊に鞭するやうな行為を、苦しみぬいた父祖に向つてすることが許されるとでもいふのか。後から生まれた人間に、さういふ傲慢な行為が許されるとでもいふのか。それ程尊大になれる程、我々は崇高な存在か。現今の我が国の道徳的退廃、秩序の崩壊、知性の喪失、どこから考へても我々は恥を知るべきだ(勿論、他国に対してではない、国を思つて戦ひ散華した父祖の世代に、である)。 ところで、先に述べた戦勝国には、中華人民共和国は絶対に入つてゐないわけだ。何を今更一体何の「権利」があつて他国の教科書や靖国参拝に口出しするのか。口出しをして、小泉の「内政干渉」発言に呉儀副首相を帰国させ、一方で王毅駐日大使が収集に躍起になつてゐる。すると、日本政府もそれに応じて穏やかにならうとする。 面白いのは、この両政府なれあひのやうなマッチポンプ。強気の発言をしては「友好が大事」と慌てて穏やかになる。 どうして、我が政府は強気で押せぬのか? 前にも書いたが、サッカー以来、あちらは失点だらけなのだ。ドタキャン帰国など、国交断絶ものであらうが。騒いでゐるのはあちらの政府と朝日新聞とNHKを筆頭としたマスコミだけである。かの国の一般国民は何も知らされてゐはしない。胡錦濤主席は未だ軍を完全には把握していないらしい。 としたら、なほのこと我が国にとつては先手必勝のまたとない機会であらう。強気に出ること。大使館を破壊し日本人を襲ふ暴動のある国などに財界は投資せぬこと、新幹線の技術など教へてやらぬ、ビザは万博の終るまでで打ち切る、オリンピックの返上を進言して差し上げる、国連など何の力もありはしないのだから、常任理事国入りもしなければ金も出さぬ、その位の心持で対すれば、あちらの態度は必ず変はる。それが力学といふものだ。その代わり我が国民も経済的に何がしかの我慢をする必要は出て来やう。それに耐へる程度の気概は持ちたいものだ。 それが出来ぬ、この、敗戦以来のトラウマとなつてしまつた弱気・弱腰こそ、昨今の日本崩壊の元凶に他なるまい。歴史問題・靖国問題・教科書問題・・・・・・全てはそこに根つ子がある。A級戦犯合祀は許せぬなどと支那・韓国に言はれると、直ぐに迎合するマスコミ・政治家・財界人。これは売国奴としか呼びやうがない。ひよつとして国家転覆でも考へてゐるのか。いやいや、そんな豪胆な者など一人もゐやしない。 未来志向の国交といふなら、60年も昔のことを、しかも上記の如く我が国では既に決着してゐることなのだ、その事実を堂々と海外に発信すればよい。それだけのことではないか。きちんと諸外国に説明する。しないのは政治家の怠慢とマスコミの底意ある作意である。懸案となつてゐる教科書問題、南京問題、靖国参拝問題、全て、きちんと外務省が全世界に説明すべきなのだ。さうすれば、A級戦犯合祀問題も、永久に葬り去られること必定であらうが。 (なほ、戦犯の名誉回復については、遠藤浩一氏のブログ「覚書」に詳しい。是非そちらをお読み頂きたい。)
by dokudankoji
| 2005-05-28 00:50
| 我が国
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七年前に更新を止めたブログ「福田逸の備忘録~独断と偏見」ーー装いも新たにタイトルを変更して再開します。これからは、残された日々の徒然を気の向くまま、心の赴くままに綴っていきます。更新は不定期です、悪しからず。(なお、「独断と偏見」時代の記事も取捨選択して、少しづつ見えるようにしてきます。) by dokudankoji カレンダー
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