2011年 04月 03日

復興増税反対、大規模財政出動を

 3月26日付の拙稿に、なぜ政府は「非常事態宣言」を出さぬのかと書いた。それから一週間余りが過ぎた。ふと思ふ、万万が一に、政府は我が国が非常事態・緊急事態におかれてゐるといふ認識を未だに有してはゐないのではないかと。そこまでは言ひ過ぎとしても、少なくとも災害発生後の二週間は、大地震と大津波と原発といふ三重苦に緊張した国民とは、かなり乖離したところに民主党政府はゐたのではあるまいか。さう疑はれてもしかたのないことばかりだ。

 今日の産経新聞のオピニオン欄に二つの記事が載つてゐる。一つは日曜経済講座で田村秀男論説委員による「非常事態に〈増税〉の愚」、その隣に佐々木類ワシントン支局長による「日本政府の不作為を問う」。(田村論説委員は経済について毎回素人にも分かりやすく解説してくれる、経済音痴の私など大いに助かりかつ勉強になつてゐる。)

 前者は国民の消費マインドを落とすやうな増税を絶対にするな、大規模な財政出動をせよといふ論旨。後者は政府が地震・津波災害の復興および福島原発になぜ米国および米軍の協力を早急に求めなかつたのか、その不作為を糾弾してゐる。

 をかしいのは、口裏を合はせた訳でもなからうが、災害発生直後にアメリカから延べられた救ひの手に対して民主党政府が麻痺したかのごとく、あるいは「作為的」に「無視」したことを具体的に示してゐる。詳しくは各記事に譲るが、簡単な例を挙げておく。

 災害発生当日約一時間後の午後3時40分にはルース駐日大使は首相官邸に電話をし、全面支援を申し出てゐるのに、官邸からは何の反応もなく、アメリカ政府は(呆れて?)24時間後に米軍の正式出動を申し入れた。しかし、政府も東電も問題は自分の手で収拾できるとの感触だつたといふ。

 また、日米首脳は地震発生後、今日まで都合四回の電話会談を行つてゐるが、16日の二度目の会談の後の日米の発表内容が微妙にずれた、つまり、日本側は大統領が「さらなる原子力の専門家の派遣」に言及したとのみ発表したが、米側は「(大統領は)核融合や原発の被害管理に通じた米軍の特殊専門部隊の派遣を含め、追加支援の用意があると伝えた」と詳細に発表した。この両者の発表のずれから読み取れるのは、米側が日本政府の原発の危機管理が手ぬるいことに苛立つてゐることが如実に表れてゐるといふのだ。

 さらにその翌日、米政府高官が「大統領は日本政府が原発事故の深刻さに気づいていると確信している」と語つたとか。「気づいていると確信している」、つまり裏返せばアメリカは「私たちはあなた方の能力を疑つてゐる、日本政府には事態の深刻さが分かつてゐない」といふことだらう。そして、佐々木支局長の書く通り、17日にはウィラード太平洋軍司令官に「われわれには監視から除染まですべて行う能力がある」とまで言はせてしまふ。これは裏を返せば「日本政府・東電はきちんと対処してゐるのですか?」と問うてゐるわけだ。日本政府からの本格支援の受け入れ要請は、この司令官の発言から二週間のちの事になる。

 その他もろもろ、上のリンクから是非ご自分で読んで頂きたい。さて、ここで、第一に田村論説委員の提起する増税反対・財政出動待望論だが、これは私が26日の拙稿でリンクを張つておいた京都大学の藤井聡教授の意見と全く一致する。
教授の「日本復興計画」については30日の拙稿でもリンクを張つた。

 これらの意見が正しいのか否か、私は専門的な判断をできる立場にはない。だが、後知恵で言ふのではなく、13日に東電が計画停電を発表した時から、田村氏と、あるいは藤井教授と同じ感想を抱いた。といふより、おそらくその時期が災害ゆゑのストレスを私が最も感じてゐたのだと思ふが、家でニュースを見るたびに、あるいは知人に遭ふ度に、計画停電とは何事か、なぜ政府は非常事態宣言を発令して、即座に東電を管理下において国家の責任で対応しないのかと、その非をならしてゐた。直観に過ぎなかつたが、国全体がどんどん委縮し冷え込んで行くのを肌身に感じてゐた。

 計画停電に抱いた疑問は、何よりも通勤の足を奪ひかねないといふことにあつた。通勤が困難だといふことは、その業種が何であれ、経済活動が下降曲線を辿ることを意味する。節電は幾らでもすべきであらうが、物流と同じに殊に首都圏の人の流れを阻害してはならない。帰宅の足を早めるのが何を齎すか。ただでさへ、東日本の住民はいはば「意気阻喪」してゐる。早く家族のもとに帰りたい、勤め人がさう考へるの当然だらう。そこへ通勤の足の動脈が間引きや運休をしたのでは、外での飲食や店舗営業は言ふに及ばず工場の操業もままならずとなり、製造業その他あらゆる産業への打撃は計りしれない。

 通勤の足とはつまり活発な活動の基盤ではないか。まあ、この三週間の事(あるいは、これから一二カ月?)は見過ごすとしても、以後は是非とも計画停電といふ四角四面な方法ではなく、既に産業界で出始めてゐるやうではあるが、同業種ごとに休日をずらすとか大学の授業は学生運動華やかなりし時代に見習つて当分休むとか……。学生はボランティアに行かせたらいい。学生のことはさておき、去年のあの酷暑をよもやお忘れではないだらう、通勤の電車の空調を切つて、あの夏場の満員電車を勤め人にどうやつて乗り切れといふのか。経済活動を停滞させたら、「日本は貧しくなるでしょう」といふL・サマーズ前アメリカ国家経済会議委員長の予測が当たらぬことを祈るばかりだ。

 今は国民に希望を持たせ、我々に明るい期待感を抱かせる政策を打ち出す時期なのだ。それを、震災復興財源増税では、盗人に追ひ銭ではない、泣きつ面に蜂、踏んだり蹴つたりではないか。恐ろしいのは、こんな局面に消費税増税のために大連立が起こりかねない様相になつてゐることだ。自民党の中にも、与党の(閣僚の)椅子が懐かしくてこの流れに棹さす議員たちが出始めてゐる。今消費税増税をしたら、消費マインドは決定的に落ち込む。震災被害と不透明で先行きの見えぬ原発問題への対処の拙さで、国民はただでさへ防衛本能が働いて財布のひもを固くしてゐる。これで税金が上がつたら、国民はさらに委縮する。デフレ下の増税が何を引き起こすか、世界経済に如何に甚大な影響を及ぼすか、私には想像もつかない。ここで、再び田村論説委員の記事「脱デフレの秘策」(1月16日付)を紹介しておく。

 この記事に付されたグラフをご覧いただきたい。ほぼ水平に移行してゐる棒線グラフが私たちの預金額、右肩下がりが銀行の私達への貸出額、上の山の尾根のやうなグラフが銀行保有国債である。つまり、一般への貸し出しを渋り始めた、銀行はそのままそれを国債保有に振り向けてゐる。融資をやめて国債を買い続けてゐるわけだ。

 詳しいことは記事を読んで頂くとして、田村氏の言はんとすることは、「ほぼゼロに近いコストの資金」(つまり私たちの預金)を仕入れて、「利回り2%強の国債25兆円を運用すれば約5千億の利ざやを収益に上乗せできる」、つまり、銀行とは名ばかりでこのままでは「国債ファンド」ではないかといふのだ。そこで、こんな銀行には「銀行資産税」をかければよい、税率を10%にしたら7.8兆円の税収になるといふわけだ。日本には金が有り余つてゐると田村氏は主張する。有り余つてゐるのに動かない、それが日本のデフレだと断じてゐる。この余つた金を動かせばデフレ脱却もできる、今次の災害復興の基盤ともなり、復興増税などして国民の気持ちを委縮させることなく、この国は復興への道を歩める、さう田村氏は言ひたいのだらう。京大の藤井教授の言葉で言へば、後は「政治決断」あるのみに違ひない。

 それを何たる体たらく、せめて、先日の「子ども手当」つなぎ法案を否決すべきだつた。高速道路無料化は廃止、現状維持を図るべきである。現状より日本はもう落ち込まない――落ち込ませないぞといふ姿勢を政府は示さなくてはならない。そのためには、国が国民が一丸となつて復興へ向けて進まうといふ号令を一国の首相は掛けなくてはならない。口先ではなく、経済的にはまさに大規模な財政出動が絶対不可欠のはずだ。東日本の被災地を復興する財源を毎年三十兆、3年から5年かけて継続的に財政出動を行ふ。そして、首都圏と、そして首都圏から関西を結ぶこの国の心臓部を今次の大地震に耐え得る強い街に建て改へる覚悟と道筋を示すべきだ。

 菅首相よ、あなたのなすべきことは、大所高所で大筋を示すこと、後は各閣僚に任せればよい。トップが何もかもやらうとしたら、何も進まない。いや、福島原発に関しては、指揮は今やアメリカの手に委ねて欲しい。情けないが、私はさう思ひ始めてゐる。この私にできるのは、かうしてブログで発信することや、友人知己の中から信じられる政治家、建設業界の人間に藤井教授の発想を伝へることくらゐしかない。

 実は、長々と書いたが、3月11日以来考へ続けてゐることがある。今回はそこまで筆を進めるつもりだつたが、産経新聞の日曜版に引き摺られた。丁度地震がおきたその瞬間に読んでゐた本にも関ることなのだが、先日来、それを書かうと思つては書けずに、といふか入口が見つからずに、数日来、短いブログ記事の発信で済ませてゐる。いはば「死」と「生」についてと言つてしまつたら、大仰のやうな、また嘘くさく、あるいは身も蓋もない話になりかねず、頭の中で言葉が空回りしてゐる。生と死、あるいはそれに絡めて「部分」と「全体」について、近々に書けるか書けぬか分からぬが、ここにかう記して自分への負債勘定としておく。
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by dokudankoji | 2011-04-03 23:09 | 雑感 | Trackback | Comments(0)
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